作家さんに会いに行ってきたよ!第8回「mikusoundmetal」

金属を叩き、溶接し、出来上がる素敵な音の鳴る作品

金属の鳴る音、聴いたことがありますか?鍛金作家の「mikusoundmetal」さんが創り出す作品の多くは、深く美しい音が鳴るんです。

「swing sing」コップ

ハコイチの出展は今年の2月からという「mikusoundmetal」さんですが、私との出会いはおよそ6年前。古い建物を気に入ってくれて、うちの建物にアトリエを構えてくれたのがきっかけです。

彼女の専門は、金属工芸。美大で本格的に金属工芸を学び、大雑把に、鍛金(たんきん)、鋳金(ちゅうきん)、彫金(ちょうきん)に分けられる金工の世界の中で、得意とするのは鍛金です。鍛金とは、金属をハンマー(金槌)で打つことでカタチを作り出す技法です。鍛冶(かじ)とも言います。

アトリエにあるたくさんのハンマー

工芸との出会いは、高校の時。選択科目に工芸があり、三年間履修しました。段ボールで椅子を作ったり、シルバーアクセサリーを作ったり、陶芸にキャンドルづくりなど、さまざまなことを体験します。ものづくりが好きだと自覚していましたが、就職への不安などもあり最初は美大は選択肢になかったといいます。美術系に進むのは怖かったそうですが、先生の後押しもあり、美大を目指すことに。じゃあどこの美大にする?東京、大阪、京都、金沢、山形…の中から選んだのは山形の東北芸術工科大学。美大の中では穴場では?という打算と、雪国に住んでみたいという希望と、入試の時の紅葉の鮮やかさに心惹かれて一路東北へと旅立ちます。

金属の光沢に映える槌目が美しい

大学では、一年目に工芸・陶芸・金工・漆芸・テキスタイルなど工芸のさわりをすべて体験しました。その中で一番楽しかったのが金工。「ハンマーで形を作るのが楽しいし、金属っていいなぁ!」から金工コースへ進むことに。一年生の金工の授業で作った、真鍮と銅を叩いて作った液体のような時計はお気に入りの作品の一つです。

「Amoeba」時計©mikusoundmetal

音との出会いは意外なところから。金属に興味ありありだったので「家にあった炊飯ジャーを鳴らしたら(叩いたら)いい音がした!」んだそう。そうして、金属と音を組み合わせた作品が生まれることになります。

金魚の風鈴

美大は4年課程ですが、4年はとても短く技法をひと通り学んだだけで、まだまだ初心者、基礎が終わる程度だったといいます。卒業制作の「coe」はカタチから入ったら音がイマイチだったと、音で失敗したそうで、まだまだやりたいことがある、「音」をもっと研究したい(あと留学がしたい)と院に進むことに。

「coe」卒業制作©mikusoundmetal

美大のカリキュラムは、午前中に美術史や英語などの授業があり、午後に演習(実技の時間)があります。演習時間は14時~17時くらいまでですが、みんな毎日21時ごろまで学校に残ってひたすら制作しているそうです。

鍛金と溶接のイヤーカフ、お気に入りです

院に入り、2年目に交換留学でスウェーデンへ。なにもかもが違うカリキュラムを楽しんだといいます。日本の大学は技術を教えることに重きを置きますが、スウェーデンはコンセプトワークが中心です。ある日学校に行くと机の上にソースがこぼれています。「ソースを何とかする道具を5個作ってくること。」これが課題です。さて皆さん、5個思いつきますか?

何とかする、と言われると例えばスプーンを思いつくでしょうか?ソースをすくう道具ですね。もちろん正解です。でも何とかする方法はほかにもたくさんあって…。学生の中にはパウンドケーキを持ってきた人が。パウンドケーキでソースをすってしまうのです。ええー、なぁるほど!たしかになんとかなった!

宇宙を感じる音の鳴るモビール

スウェーデンの遺跡でルーン文字を見るなどして、いろんな体験をして戻ってきたころには、就職活動が終わっていました。デザイン会社に入ったりと、美大生の多くは就職します。アーティストとして生きていけるのはごくごくわずか…。実家が太い人以外はみんな就職するんです。そして訪れるニートの危機…、そこで彼女はなぜか大学の就職課を使わず、ハローワークに行きます。ものづくりができる会社、で入ったのが京都の建築のような何かの仕事をする会社。割とブラックで、溶接したりコンクリ打ったりアイスクリーム売ったりB&Bの管理をしたりと、休みもなく働く日々。京都では平屋を借りて、その中の一室をアトリエにして作れる環境を整えていました。でも、住宅の一室でできることも少なく、ものづくりをする時間も取れず。アトリエのある場所に住もう、と次の新天地を探し始めます。

「蓄音犬」©mikusoundmetal

そんなときにうちの建物空いてるよ、の話が結びつきます。もともと「mikusoundmetal」さんのお姉さんが「circuseeds」という古布でぬいぐるみを作っていて、ハコイチの出展作家さんで、一時期うちに間借りしていた縁があったのです。そこから繋がり、アトリエを構えられる福岡に戻ってくることに。

アトリエの様子

帰福後は昼は制作、夜にアルバイトの生活を開始したもののきつくてものづくりができない日々が続きました。そこで働く日と制作日を分けることにし、IKEAに短時間正社員として就職。ある程度安定した収入を得ながら、知り合いからのオーダーを受けるなど制作にはげみ、アトリエも徐々に設備が充実していきます。ハンマーなどの道具は持っていましたが、溶接器具一式などはアトリエを構えてから購入しました。そしてちょうどその頃、私が「mikusoundmetal」さんの作った音に初めて触れたんです。

「swing bell」

「swing bell」ゆらゆら揺れて、しゃらしゃらと不思議で素敵な音を奏でるおもちゃ。昭和の頃あった赤ちゃんな見た目の赤ちゃんをあやすおきあがりこぼしみたいな…心地よい音色が鳴るんです。(昭和のおきあがりこぼしは「おきあがりポロンちゃん」といって今でも現役で販売されています)うちの娘の誕生祝に、旦那さんがオーダーしたものです。

ハードな見た目からは想像つかないやわらかい音の秘密…。この心地よい音が誕生するきっかけは、仙台にある感覚ミュージアムで見つけたハート形のおもちゃ。なぜこんなやわらかな音がするのかと疑問に思い、切断してみたところ、中に入っていたのは玉とバネ。金属の生み出す音を愛する「mikusoundmetal」さんは、早速自分の作品に取り入れて…。そうして出来上がった作品が「swing bell」なのです。

作業机の様子

そうして働きながら制作すること5年。ぼちぼちとオーダーも増えてきました。そろそろ…。ものづくりだけで生きていくことへの不安はありましたが、もともといつかは!と思っていました。ついに覚悟を決めます。仕事を辞め、アーティスト「mikusoundmetal」としてやっていくことに。

じつはハコイチ出展前から、ハコイチ会場には「mikusoundmetal」さんの作品が登場していました。ひとつはハコビル二階に吊り下がっている大きなモビール。ゆらゆらと揺れてハコビルを美しく彩ってくれています。高いところにあるのですが、もちろん素敵な音が鳴りますので、触ってみてください。

ハコビルにあるモビール

それとハコ町屋一階の、電灯のスイッチアクセサリー。3個あってそれぞれ表情が違います。揺らすとやさしい音が聴こえます。

ハコ町屋のスイッチアクセサリー

えいや、っとアーティストとなり満を持してのハコイチ初出展が2022年の2月でした。初出展時は緊張したそうですが、ハコイチは基本的に自由だからふらふら~っとして楽しめたそうです。それまでに個展やポップアップの経験はありましたが、マルシェやハンドメイドイベントへの出展は初めてだったとのこと。それから毎月かかさず出展してくれています。出展回数が増えて周りの作家さんとも段々と顔見知りになり、ハコイチに溶け込めたかな~と感じ出してからハコイチ出展がより楽しくなったそう。

ハコイチ出展の様子

ハコイチでは開放感があるハコ町屋の雰囲気が気に入っている、と教えてくれました。もともとレトロモダンな雰囲気が好きだそうで、古民家にはモダンなものが合いますよね、とのこと。ハコイチは、お客さんと新しい縁があって、作家さんとも出会いがある。時には作家さんから知らない技術を教えてもらったりもするそうです。

作家さんからオーダーを受けることも。これはハンガーラックの改善

「ハコイチは毎月開催なので、開催日に向かってスケジュールを立てることでやる気が出る。ちょうど良い刺激があるんです。」言葉の通り、毎月精力的に新作を作って出展してくれています。大きなものから小さなものまで、オブジェからアクセサリーまで、やりたいことつくりたいものに全力の「mikusoundmetal」さん、ただいま絶賛奮闘中です。

なのでお仕事募集中、オーダーも何でもやります!とのこと。HPやSNSにはたくさんの作品が載っているので、気になる作品があったらぜひハコイチで、メッセージで問い合わせてみてください。金属は、カッコいいですよぉ~!

次回の出展は2022年9月のハコイチです。また、11月に門司港で開催の「たゆたひの陶器・クラフト市」にも出店予定とのことです。

Pick Up この記事で紹介した作家

mikusoundmetal

手に取ったり触ったりした時に、非日常の空間へ繋がれるような作品を創っています。 すべて手作業で金属を叩いて、熔接し、磨いて創っているので、ひとつずつ音も異なります。お気に入りの音色を見つけていただけると嬉しいです。

ハコイチHP内 作家個別ページ

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